プロジェクトマネジメントの原則とは?
原則(Principle)は、行動を決めるときの土台になる考え方です。「この順番でこの文書を作る」という手順とは違い、「どんな状況でも、これを大事にして判断する」という指針です。
PMBOK®ガイドに原則が入ったのは第7版(2021年)からです。予測型・アジャイル・ハイブリッドと進め方が多様になり、一つの手順をすべてのプロジェクトには当てはめられなくなりました。そこで、共通の判断軸として示されたのが原則です。第8版(2025年)でも原則は残り、6つに整理されています。
日常の仕事に置き換えると、原則は「会社の行動指針」に近いものです。細かいルールがない場面でも、行動指針に照らせば「どちらがよりふさわしいか」を判断できます。
第8版の6つの原則とは?(第7版の12との対応)
第8版の6つの原則と、それに近い第7版の原則を並べます。第8版の名前は日本語版の目次のもの、意味の説明と第7版の原則名は当サイトの要約です。
| 第8版の原則(日本語版の名前) | 意味(当サイトの要約) | 近い第7版の原則 |
|---|---|---|
| ホリスティックな視点を採用する | 部分最適でなく、組織・関係者・環境とのつながりで考える | システム思考、複雑さ |
| 価値に注力する | 成果物を作ること自体でなく、その先の価値を目指す | 価値 |
| プロセスと成果物に品質を組み込む | 後で検査するより、作る過程と成果物に品質を作り込む | 品質 |
| 説明責任を果たせるリーダーとなる | 肩書きに関係なく、誠実に責任を持ってふるまう | スチュワードシップ、リーダーシップ |
| すべてのプロジェクト領域に持続可能性を統合する | 環境・社会・経済への長期的な影響を考える | (第8版で明示) |
| 自律的な文化を構築する | チームが自分たちで考え、決め、協力できる環境をつくる | チーム、ステークホルダー、適応力 |
第7版の12の原則は、英語名で Stewardship、Team、Stakeholders、Value、Systems Thinking、Leadership、Tailoring、Quality、Complexity、Risk、Adaptability and Resiliency、Change です。このうちテーラリング(状況に合わせてやり方を調整する)やリスク、変化への対応は、第8版ではテーラリングの章やリスクの領域などで扱われています。
版ごとの構成の違いは パフォーマンス・ドメインとは? でも整理しています。
原則をどう行動に結び付ける?
原則は抽象的なので、そのままでは問題を解けません。「この原則に沿うと、どんな行動が好まれ、どんな行動が避けられるか」に置き換えておくと使えるようになります。
| 原則 | 好まれる行動 | 避ける行動 |
|---|---|---|
| ホリスティックな視点 | 変更の影響を、他のチームや運用まで含めて分析する | 自分のチームの作業だけを見て決める |
| 価値に注力する | 優先順位を価値で決め、早めに使える形で届ける | 計画どおり作ることだけを目標にする |
| 品質を組み込む | 完了の定義(DoD)や受入基準を先に合意する | 最後の検査で不具合を見つけて直す |
| 説明責任を果たせるリーダー | 問題を隠さず報告し、自分で動いて解決する | 責任を他人に押し付ける、報告を遅らせる |
| 持続可能性 | 環境や社会への影響を要求やリスクに含める | 短期のコストだけで判断する |
| 自律的な文化 | チームに相談し、決める権限を渡す | PM が一人で決めて命令する |
完了の定義(DoD)は「どこまでできたら完了と呼ぶか」のチームの約束で、スクラムガイドの日本語版では「完成の定義」と訳されています。受入基準は、成果物を受け入れてもらうための条件です。関係者との関わり方は表の多くの行に出てきます。基本は ステークホルダーとは? で解説しています。
状況問題にどう当てはめる?
PMP 試験の状況問題では、4つの選択肢のうち2つほどが「原則に反する行動」になっていることがよくあります。原則を使った絞り込みの手順は次のとおりです。
- 1
状況を読む
何が起きていて、誰が困っているかをつかむ
- 2
原則に反する選択肢を消す
独断・隠ぺい・責任転嫁・手順の無視などを外す
- 3
残りを比べる
より価値に近く、より関係者を巻き込む方を選ぶ
- 4
順番を確かめる
「まず事実の確認」が先か、問いが「次に」何をするかを見直す
原則は正解を直接教えないが、不正解を消す道具として強い。
注意点は、原則だけで決めつけないことです。たとえば「チームに任せる」は多くの場面で好まれますが、法令違反や安全の問題など、PM が自分ですぐに対応すべき場面もあります。原則は「迷ったときの軸」として使い、状況の事実と合わせて判断します。
例題:原則で選択肢を消すとどうなる?
例で手順を試します。リリースの3日前に、情報セキュリティの担当者から「個人情報の保存のしかたが社内規程に合っていない」と指摘されたとします。選択肢ごとに、反する原則を当てはめると次のようになります。
| 選択肢 | 反する原則 | 判定 |
|---|---|---|
| 予定どおりリリースし、次の版で直す | 品質を組み込む、説明責任 | 消す |
| チームに知らせず、PM が夜のうちに設定を直す | 自律的な文化、説明責任 | 消す |
| 規程の方を変えてもらうよう担当部署に頼む | ホリスティックな視点(組織全体のルールを軽く見る) | 消す |
| 影響を確かめ、スポンサーと関係者に伝えて対応を決める | 反していない | 残す |
残ったのは、事実を確かめ、隠さずに関係者と決める選択肢です。このように、原則は「どれが正しいか」より「どれが明らかに違うか」を素早く見分けるのに役立ちます。原則に沿った判断の練習は 無料模試30問 で試せます。
原則の覚え方は?
原則の名前を一字一句覚える必要はありません。試験で問われるのは、名前ではなく行動です。おすすめの覚え方は次の2つです。
- 1つの原則に1つの場面を結び付ける:「価値に注力する」なら「計画どおりでも使われない機能は、目的に照らして見直す」のように、自分の経験や問題の場面と結ぶ。
- 間違えた問題で原則に戻る:模試で間違えたら、「どの原則に反する選択肢を選んだか」を書き出す。同じ原則で何度も間違えるなら、そこが弱点です。
用語の確認には プロジェクトマネジメント用語集 が使えます。試験範囲の全体像は 新ECO(2026年版)の解説 にまとめています。
確認問題1
価値に注力する
(当サイトの独自問題)予測型で進めている社内ポータルの刷新で、計画どおりに全機能が完成した。しかし公開後、利用者の多くは主要な2つの機能しか使っておらず、目的だった問い合わせ件数の削減も進んでいない。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:3。目的(問い合わせの削減)が達成されていないので、価値の観点で原因を分析します。スポンサーや利用者と一緒に考えるのが基本です。
1:計画どおりでも、目的の価値が出ていません。2:目的とのずれを分析する前に、使われない機能の作り直しを決めています。4:原因に手を打たず、症状に対応しているだけです。
確認問題2
自律的な文化
(当サイトの独自問題)経験豊富なメンバーがそろったアジャイルのチームで、プロジェクト・マネジャーは毎朝、各メンバーの作業を細かく割り当てている。最近、メンバーから「自分たちで決めたい」という声が出た。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。経験のあるチームには、決める権限を渡す方が力を発揮できます。PM は進め方を一緒に決め、障害を取り除く役に回ります。
2:希望を聞いても、決める権限は PM に残ったままです。3:PM の代わりに別の一人が割り当てるだけで、チームの自律にはなりません。4:チームの作業の進め方は、PM とチームで決められる範囲です。
確認問題3
説明責任を果たせるリーダー
(当サイトの独自問題)プロジェクト・マネジャーは、自分の見積りの誤りで、来月のマイルストーンに2週間遅れることに気づいた。スポンサーへの定例報告は3週間後である。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:4。重要な影響は早く、正直に伝えます。対応案を添えれば、スポンサーも判断しやすくなります。
1:報告を遅らせると、関係者が手を打つ時間を奪います。2:再発防止は大切ですが、報告を後回しにしています。3:事実を隠す不誠実な行動です。