ベネフィットマネジメントとは?成果物と便益はどう違う?
ベネフィットマネジメントは、プロジェクトが生む便益(ベネフィット)を特定し、計画し、測って実現まで追う管理です。流れは「便益を特定して合意する→実現の計画を作る→測って追跡する」の3段階です。
理解の鍵は、成果物・成果・便益の3つを分けて考えることです。経費精算システムの例で示します。
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成果物
経費精算システム(プロジェクトが作る)
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成果(アウトカム)
社員が紙を使わず精算するようになる
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便益(ベネフィット)
経理の処理時間が年間3,000時間減る
- 4
価値
浮いた時間を分析業務に回し、意思決定が速くなる
架空の例。当サイトの整理
プロジェクトは成果物を作ります。しかし、組織がお金を出す理由は成果物ではなく、その先の便益です。システムが完成しても、社員が使わなければ処理時間は減りません。だからこそ、成果物を引き渡したら終わりではなく、便益が出るまでを見通して計画します。
便益には、金額で表せるもの(費用の削減、売上の増加)と、表しにくいもの(顧客満足、法令の順守、従業員の負担の軽減)があります。表しにくいものも、測れる指標に置き換えて追います。
新しい ECO は、Process タスク3「価値に基づく提供を確実にする」のイネーブラーに、「便益を追跡する測定の仕組みがあることを確かめる」を挙げています。旧版(2021年版)では、便益は Business Environment のタスク2で扱われていました。価値に基づく提供の全体像は価値に基づく提供とは?で解説しています。
ベネフィット実現計画には何を書く?
便益をどう生み、どう測るかをまとめた文書がベネフィット実現計画です。「ベネフィット・マネジメント計画書」と呼ぶこともあります。
プロジェクトを始める根拠であるビジネスケースと対になる文書です。ビジネスケースは「なぜやるか」を示し、この計画は「便益をどう確かめるか」を示します。
| 項目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 目標とする便益 | 得たい便益を具体的に | 経理の処理時間の削減 |
| 戦略との結びつき | 組織の目標とどうつながるか | 中期計画の「管理部門の効率化」 |
| 指標と目標値 | 何を測り、どこまで達成するか | 月間処理時間を250時間削減 |
| 現状値(基準値) | 比べる元になる今の値 | 現在の月間処理時間 600時間 |
| 時期 | いつまでに、いつ測るか | 稼働後3か月・6か月・12か月 |
| 便益オーナー | 便益の実現と報告に責任を持つ人 | 経理部長 |
| 前提とリスク | 便益が出る条件と、出ないおそれ | 全社員が新システムを使うこと |
特に大事なのが現状値と便益オーナーです。現状値が無いと「減った」と言えません。便益オーナーがいないと、プロジェクトの解散後に誰も測らなくなります。
便益はどう計算する?現状値から金額まで
上の表の例で、現状値・目標値・金額のつながりを計算してみます。
年間の便益 =(現状値 − 稼働後の値)× 12か月 × 1時間あたりの費用
- 1現状値:月600時間(稼働前に計測)
- 2稼働後の値:月350時間
- 3削減:600−350=月250時間 → 250×12=年3,000時間
- 4金額:3,000時間×4,000円=年1,200万円
年3,000時間・1,200万円の便益。現状値が無いと、この計算はできない
架空の数値。1時間あたりの費用は仮の値
年3,000時間は、冒頭の図の便益と一致します。このように、現状値・目標値・年換算の便益が計算でつながっていると、関係者に説明しやすくなります。
投資額と比べるときは、費用便益分析などの方法を使います。便益が出るまでの期間が長いほど、計算の前提(使う人の割合など)も合わせて示します。
便益を測る指標はどう設計する?
指標の作り方で、追跡のしやすさが大きく変わります。当サイトで意識している点は次のとおりです。
- 測れること:データがどこから、どれだけの手間で取れるかを決めておく。手作業で集める指標は続かない。
- 先行指標と遅行指標を組み合わせる:売上や費用の削減(遅行指標)は時間がかかる。利用率や処理件数(先行指標)を併せて見ると、早い段階で兆しが分かる。
- 便益に直結すること:システムの稼働率のような成果物の指標だけでなく、便益そのものの指標を入れる。
- 数を絞る:多すぎる指標は誰も見なくなる。判断に使うものだけにする。
- 意図しない影響も見る:処理時間が減っても、誤りが増えていないか、といった副作用の指標も置く。
経費精算の例では、先行指標として「新システムで精算した件数の割合」を毎月見ます。割合が伸びていなければ、処理時間も減らないはずです。研修や操作の改善といった手を、早めに打てます。
プロジェクト終了後は誰が便益を追跡する?
便益の多くは、プロジェクトが終わってから現れます。システムが定着し、業務の仕方が変わるまでには時間がかかるからです。そのため、追跡の責任をプロジェクトの外に引き継ぐ必要があります。
一般的には、運用部門や事業部門の便益オーナーが追跡を引き継ぎます。プロジェクトがプログラムやポートフォリオの一部なら、それらの管理者が便益をまとめて追います。プロジェクト・マネジャー(PM)の仕事は、終わる前に次のことをそろえておくことです。
- 便益オーナーが追跡の責任を引き受けたことを確認する
- 指標・現状値・測る時期・データの取り方を引き継ぐ
- 便益が出ないときに、誰に報告し、どう判断するかを決めておく
- 最初の測定の結果を、可能なら終結の前に共有する
この引き継ぎは、プロジェクトの終結と運用への移行の一部です。終結の手順はプロジェクト終結の手順で扱います。
ビジネス価値はプロジェクト中にも確かめる?
はい。便益の追跡は、終了後だけのものではありません。プロジェクトの途中でも、計画した便益がまだ見込めるかを点検し続けます。
たとえば、市場の変化で予定していた売上の増加が見込めなくなった、規制の変更で別の対応が必要になった、などです。便益の見込みが大きく変わったら、スポンサーに報告し、スコープの見直しや優先順位の変更を検討します。計画どおりに進んでいても、便益が見込めない成果物を作り続けるのは、組織にとって損失です。
段階的にリリースしている場合は、早いリリースの便益を実測できます。その結果で、次のリリースの中身を調整できるのは大きな利点です。
便益を確かめる判断は試験でも出ます。タスク別ドリルの Process タスク3で、場面ごとに練習できます。
確認問題1
現状値が無い
(当サイトの独自問題)問い合わせ対応を自動化するプロジェクトの計画段階です。ビジネスケースでは「対応時間を40%削減」としていますが、今の対応時間は記録されていません。システムの稼働は6か月後の予定です。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:2。40%削減を確かめるには、比べる元になる現状値が必要です。稼働前に測り方を決めて計測を始め、ベネフィット実現計画に記録します。
1:比べる元が無いので、削減率が分かりません。3:成果物の完成を、便益とすり替えています。4:自社の実態と違う値では、効果を正しく評価できません。
確認問題2
終了後の追跡の引き継ぎ
(当サイトの独自問題)生産設備の更新プロジェクトが終結に近づいています。目標の便益である「不良率の半減」は、稼働から1年かけて確かめる計画です。プロジェクトチームは来月解散します。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:4。プロジェクト終了後に現れる便益は、運用側の便益オーナーが追跡を引き継ぎます。指標・現状値・測る時期・報告先をそろえて渡します。
1:記録を残しても、測る責任を持つ人がいなければ追跡されません。2:便益の追跡のためだけにチームを残すのは非効率です。3:便益が確かめられず、投資の判断ができなくなります。
確認問題3
便益の見込みが下がった
(当サイトの独自問題)新しい会員アプリを開発しています。市場調査で、想定していた会員数の伸びが半分程度にとどまる見込みだと分かりました。開発は予定どおり進んでいます。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。便益の見込みが大きく変われば、投資の前提が変わります。影響を分析してスポンサーに報告し、スコープの見直しなどを含めて判断してもらいます。
2:価値の下がった成果物を作り続けるおそれがあります。3:承認なしに目標を書き換えるのは不適切です。4:根拠も承認もないスコープの追加になります。