契約タイプとは?3つの違いを先に結論で
契約タイプは、コストが予定より膨らんだとき、誰がその負担を負うかを決める仕組みです。どれを選ぶかで、買い手(発注者)と売り手(受注者)のリスクの分け方が変わります。管理の手間や、売り手の動機の向きも変わります。
結論から言うと、違いは次の3行です。定額は「価格を固定し、超過は売り手が負う」。実費償還は「かかった費用を買い手が払い、超過も買い手が負う」。T&M は「単価だけ決め、総額は作業量しだい」です。
定額(FFP など)
- コスト超過のリスク売り手
- 範囲の明確さ明確
- 買い手の管理の手間小さい(成果物の確認が中心)
- 売り手の動機コストを抑える方向
T&M
- コスト超過のリスク買い手(上限で調整可)
- 範囲の明確さあいまいでも始められる
- 買い手の管理の手間中(時間の確認が要る)
- 売り手の動機時間が長引くおそれ
実費償還(CPFF など)
- コスト超過のリスク買い手
- 範囲の明確さ不確実
- 買い手の管理の手間大きい(費用の監査が要る)
- 売り手の動機フィーの種類で変わる
当サイトの整理。目安であり、条項によって変わる
2026年版の ECO は、Process タスク5「調達を計画し管理する」のイネーブラーに「望ましい契約タイプを選ぶ」を挙げています。2021年版の調達のタスクには無かった項目です。交渉の進め方(旧版では People のタスク)も、このタスクにまとめられました。調達の流れ全体は調達マネジメントとは?で解説しています。
契約タイプの一覧と違いは?
主な契約タイプを、リスクの負担で並べます。試験では英語の略語のまま出ることが多いので、略語と中身をセットで覚えます。
| 分類 | 契約タイプ | しくみ | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 定額 | FFP(完全定額) | 価格を固定。コストが超えても売り手の負担 | 範囲が明確で、変わる見込みが小さい |
| 定額 | FPIF(定額インセンティブ・フィー) | 目標価格に、成果に応じた増減と上限価格を付ける | 範囲は明確だが、コスト削減や早期完了を促したい |
| 定額 | FP-EPA(経済価格調整付き定額) | 物価や為替などの変動に応じて価格を調整する | 複数年にわたり、物価変動が大きい |
| 実費償還 | CPFF(実費+定額フィー) | 実費を払い、フィーは固定額 | 範囲が不確実で、研究開発的 |
| 実費償還 | CPIF(実費+インセンティブ・フィー) | 実費を払い、目標との差を一定の比率で分け合う | 不確実だが、コスト削減を促したい |
| 実費償還 | CPAF(実費+アワード・フィー) | 実費を払い、買い手の主観的な評価で報奨を決める | 成果の質を数値化しにくい |
| 混合 | T&M(タイム&マテリアル) | 時間単価×時間+材料費。単価は固定、総額は開いている | 少量の作業、人員の補強、範囲がすぐ決まらない |
定額契約(FFP・FPIF・FP-EPA)の特徴は?
FFP(完全定額) は最も単純で、買い手にとって予算が読みやすい契約です。ただし、範囲があいまいなまま結ぶと問題が起きます。売り手は不確実さの分を上乗せした高い価格を出すか、契約後に変更の請求が相次ぎます。定額契約は、範囲をはっきり書けるときに選ぶものです。
FPIF は、目標の費用・利益・価格と、費用の増減を分け合う比率、そして上限価格を決めます。上限があるので、買い手の負担は上限を超えません。計算例で確かめます。
支払額 = 実コスト + 調整後の利益(ただし上限価格まで)
- 1条件:目標コスト1,000万円、目標利益100万円、目標価格1,100万円、上限価格1,200万円、分担比率 買い手70:売り手30
- 2実コストが1,100万円になった → 超過は1,100−1,000=100万円
- 3売り手の負担:100万円×30%=30万円 → 利益は100−30=70万円
- 4支払額:1,100+70=1,170万円(上限1,200万円以下なので、そのまま支払う)
- 5参考:上限に達する実コスト=(1,200−1,100)÷0.7+1,000≒1,142.9万円。これを超えた分は売り手がすべて負う
支払額 1,170万円(売り手の利益 70万円)
架空の数値。比率や上限の決め方は契約ごとに異なる
上の「上限に達する実コスト」は、英語で PTA(Point of Total Assumption)と呼ばれます。一般的な定義は (上限価格−目標価格)÷買い手の分担比率+目標コスト です。
この例の PTA は約1,142.9万円です。実コストがこれを超えると、支払額は上限価格で頭打ちになります。超えた分は、すべて売り手の負担です。
FP-EPA は、長期の契約で使います。燃料費や為替などの外部要因による変動を、あらかじめ決めた指数で価格に反映させます。売り手が自分では管理できない変動のリスクを、買い手と分け合う仕組みです。
実費償還契約(CPFF・CPIF・CPAF)の特徴は?
実費償還契約は、売り手にかかった正当な費用を買い手が払い、それにフィー(売り手の利益)を加える契約です。範囲が不確実で、定額では引き受け手がいない、あるいは非常に高くなる場合に使います。買い手がコスト超過のリスクを負うので、費用の報告や監査の仕組みが欠かせません。
CPFF はフィーが固定額です。費用が増えてもフィーは増えないので、費用をむやみに増やす動機は弱まります。ただし、費用を減らす動機も強くありません。
CPIF は、目標の費用と、差額を分け合う比率を決めます。費用を下げるほど売り手のフィーが増えるので、削減の動機が生まれます。
支払額 = 実コスト + 調整後のフィー
- 1条件:目標コスト1,000万円、目標フィー100万円、分担比率 買い手80:売り手20
- 2実コストが900万円になった → 節約は1,000−900=100万円
- 3売り手の取り分:100万円×20%=20万円 → フィーは100+20=120万円
- 4支払額:900+120=1,020万円
支払額 1,020万円(売り手のフィー 120万円)
架空の数値。最低・最高フィーがある契約では、その幅に収める
実際の CPIF 契約では、フィーに最低額と最高額を設けることが多いです。計算したフィーがその幅を外れたら、幅の端で止めます。試験で最低・最高のフィーが示されていたら、最後に必ず照らし合わせてください。
CPAF は、報奨(アワード)の額を、買い手が評価基準に沿って決めます。売り手は評価に異議を唱えられないのが一般的です。質や対応のよさなど、数値にしにくい成果を促したいときに使います。
POINT
計算でよくある誤り:①分担比率を逆に使う(「買い手80:売り手20」なら、売り手の取り分・負担は差額の20%)。②超過のときにフィー(利益)を増やしてしまう(超過なら減り、節約なら増える)。③買い手の支払額に実コストを入れ忘れ、フィーだけを答える。④FPIF で上限価格との比較を忘れる。
タイム&マテリアル契約はいつ使う?
T&M は、作業時間に単価を掛けた額と、材料費を払う契約です。単価が決まっている点は定額に、総額が決まっていない点は実費償還に似ています。そのため混合型と呼ばれます。
すぐに作業を始めたいが範囲がまだ決まらないとき、少量の作業を頼むとき、専門家を一時的に補強するときに向いています。総額が膨らむおそれがあるので、上限額や期間の上限を設けるのが普通です。
契約タイプはどう選ぶ?
判断の順序を、当サイトの整理で示します。上から順に問いを当てていくと、候補が絞れます。
- 範囲は明確か:明確で変わりにくいなら定額。不確実なら実費償還か T&M を考える。
- 誰がリスクを管理しやすいか:売り手が技術とやり方を管理できるなら、リスクを売り手に寄せてもよい。外部要因の変動なら FP-EPA で分け合う。
- 何を促したいか:コスト削減や早期完了ならインセンティブ型(FPIF・CPIF)、質の評価ならアワード型(CPAF)。
- 管理の負担に耐えられるか:実費償還は費用の監査が要る。買い手の管理体制も考える。
アジャイルではどんな契約にする?
アジャイルでは、最初に範囲を固定しにくいので、完全定額は合いにくい場面があります。よく使われる工夫は次のとおりです。
- 小さな定額の積み重ね:スプリントやリリースごとに範囲を区切り、定額で発注する
- 上限付きの T&M:単価で払いつつ、総額や期間に上限を設ける
- 範囲の入れ替え:予算と期間は固定し、同じ規模の項目なら入れ替えを認める
- 早期終了の条項:十分な価値が届いた時点で、残りを発注せずに終われるようにする
どれも、変化を受け入れつつ、双方のリスクを見える形に保つための工夫です。アジャイルソフトウェア開発宣言も、契約の交渉より顧客との協調を重んじるとしています。
条件を詰める交渉については、PMPの交渉の記事を参照してください。
PMP試験では契約タイプがどう問われる?
出題の形は、大きく4つです。それぞれの押さえどころをまとめます。
| 問われ方 | 押さえどころ |
|---|---|
| 状況に合う契約タイプを選ぶ | まず範囲の明確さを見る。明確なら定額、不確実なら実費償還、少量で急ぐなら T&M |
| リスクを誰が負うかを問う | コスト超過のリスクは、定額なら売り手、実費償還なら買い手。T&M は上限が無いと買い手に寄る |
| インセンティブを計算する | 差額×売り手の比率でフィー(利益)を増減し、実コストに足す。FPIF は上限価格と比べる |
| 売り手の動機を問う | CPFF はフィーが固定で、削減の動機が弱い。CPIF・FPIF は削減すると売り手も得をする |
計算と選択の問題は、タスク別ドリルの Process タスク5で練習できます。
確認問題1
範囲が固まらない研究開発
(当サイトの独自問題)新素材の試作を外部の研究機関に依頼します。どの方法で試作できるかは、実験を進めてみないと分かりません。研究機関は、定額では引き受けられないと言っています。費用の報告を受ける体制は社内にあります。最も適切な契約タイプはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:4。範囲が不確実で、売り手が定額のリスクを負えない場合は、実費償還契約が向いています。買い手に費用を確認する体制があることも条件に合います。
1・2:範囲が明確でないと、定額型は成り立ちにくくなります。3:外部要因の物価変動を調整する契約で、範囲の不確実さには対応しません。
確認問題2
CPIF の支払額
(当サイトの独自問題)CPIF 契約で、目標コスト2,000万円、目標フィー150万円、分担比率は買い手75:売り手25です。実コストは2,200万円でした。買い手が支払う総額はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:2。超過は2,200−2,000=200万円。売り手の負担は200×25%=50万円なので、フィーは150−50=100万円。支払額は2,200+100=2,300万円です。
1:実コストに目標フィー150万円をそのまま足しており、売り手の負担を反映していません。3:目標価格(2,000+150)のままで、実コストを払っていません。4:フィーを50万円減らすべきところを、逆に50万円増やしています。
確認問題3
すぐに始めたい少量の作業
(当サイトの独自問題)システム移行の直前に、データの整形作業が想定より多いことが分かりました。作業量はまだ読めませんが、2週間以内に専門家を1人加えたいと考えています。予算の超過は避ける必要があります。最も適切な契約の形はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:3。範囲が読めず、すぐに人を加えたい場面では T&M が向きます。上限額を設けることで、予算超過のリスクを抑えられます。
1:作業量の確定を待つと、期限に間に合いません。2:短期の人員補強には、評価の手間が見合いません。4:物価変動の調整は、この状況の課題ではありません。