新ECOで交渉はどこで問われる?
2026年版の ECO では、Process タスク5「調達を計画し管理する」のイネーブラーに、交渉の項目が2つ並んでいます。「交渉戦略を決める」と「契約の交渉に参加する」です。
旧版(2021年版)では、交渉は People 領域のタスク8「プロジェクトの合意を交渉する」でした。2026年版では調達のタスクに入り、ベンダーとの契約の交渉として問われやすくなったと考えられます。調達の流れ全体は調達マネジメントとは?を参照してください。
交渉は調達だけのものではありません。資源の取り合い、スコープの調整、関係者どうしの対立など、People 領域の場面でも同じ考え方を使います。この記事では、契約交渉を中心に、プロジェクトで使える交渉の基本を整理します。
注意したいのは「参加する」という表現です。契約に署名する権限は、多くの組織で調達部門や法務にあります。プロジェクト・マネジャー(PM)は、技術・範囲・スケジュールをいちばんよく知る立場で交渉に加わります。そして、プロジェクトの目的に合う条件になるよう支えます。
交渉の前に何を準備する?BATNAとは?
交渉の結果は、準備でほぼ決まります。当サイトでは、次の5つを準備することをすすめます。
買い手(自社)
- 希望900万円で頼みたい
- 譲れる限界1,100万円まで(他社の見積もりが1,100万円)
- BATNA他社に1,100万円で頼む
売り手(ベンダー)
- 希望1,200万円で受けたい
- 譲れる限界1,000万円まで(これ未満は赤字)
- BATNA他の案件に人を回す
1,000万〜1,100万円の間なら双方が合意できる。範囲が重ならなければ、価格以外の条件を探る
架空の例
- 目的:この交渉で何を得たいか。プロジェクトの目的と成功基準に照らして決める。
- 優先順位:価格・納期・品質・支払い条件・保守など、何を最も重視し、何なら譲れるか。
- BATNA:合意できなかったときの最善の代案。例:別の会社に頼む、内製に切り替える。
- 譲れる限界(留保点):これを超えるなら合意しない、という線。BATNA と比べて決める。
- 相手の利害:相手は何を重視しているか。売上、継続的な取引、実績づくり、支払いの早さなど。
BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)は、交渉の力の源です。良い代案があれば、不利な条件をのむ必要はありません。逆に代案が弱いと分かっていれば、交渉の前に代案を強くすることを考えます。他社からも見積もりを取る、などです。
Win-Winを目指すにはどう進める?
PMP で正解になりやすいのは、相手を打ち負かす交渉ではなく、双方が得をする合意(Win-Win)を目指す交渉です。プロジェクトでは、交渉の相手と契約後も一緒に仕事を続けるからです。進め方のポイントは次のとおりです。
- 立場ではなく利害で話す:「価格を1割下げてほしい」(立場)ではなく、「今期の予算の枠に収めたい」(利害)を伝える。利害が分かれば、支払いの時期をずらす、範囲を段階に分けるなど、別の解決策が見えてくる。
- 選択肢を増やしてから決める:価格だけの1本の線で押し合うと、どちらかが損をする。納期・範囲・支払い条件・保守など、複数の条件を組み合わせて交換する。
- 客観的な基準を使う:市場の相場、過去の実績、業界の標準など、双方が納得できる物差しで話す。
- 人と問題を切り離す:相手を責めず、問題に向き合う。感情的になった場面では、いったん休憩を取る。
- 誠実に話す:PMI の倫理規定が重んじる誠実さと公正さに反するような、うそや不当な圧力は使わない。
交渉で行き詰まったら、事前に決めた BATNA と留保点に立ち返ります。限界を超える条件をのむくらいなら、代案に切り替えるほうがプロジェクトのためになります。
合意内容はどう契約に反映する?
交渉の場で合意しても、契約や計画に正しく反映されなければ意味がありません。反映の手順を整理します。
- 1
合意事項の確認
その場で要点を読み合わせる
- 2
書面にまとめる
議事録・合意書の案
- 3
権限者の承認
調達部門・法務・スポンサー
- 4
契約に反映
SOW・条件・契約タイプ
- 5
計画に反映
スケジュール・予算・リスク
当サイトの整理
特に気をつけたいのは、口頭だけの合意です。担当者どうしの「それでいきましょう」は、後で解釈が分かれる原因になります。範囲・価格・納期・受入基準・変更の手続きは、必ず書面に残します。
合意の内容によって、契約タイプの選び方が変わることもあります。範囲を段階に分けたなら、段階ごとの定額契約にする、などです。契約タイプはPMPの契約タイプ一覧で整理しています。合意した結果はスケジュール・予算・リスク登録簿にも反映し、関係者に知らせます。
アジャイルで外部の会社と組む場合は、交渉の中心が変わります。予測型では「何を・いくらで・いつまでに」を最初に固めるのが山場です。アジャイルでは範囲を最初に固めにくいので、「進め方の約束」を交渉で決めることが多くなります。たとえば、範囲の入れ替えのルール、スプリントごとの受け入れの方法、途中で打ち切れる条件、単価と上限額です。
契約後も、優先順位の調整を通して小さな交渉が続きます。そう考えておくと、相手との関係を保ちやすくなります。
PMP試験では交渉がどう問われる?
交渉の問題で、選択肢を見分けるポイントは次のとおりです。
- 準備を飛ばす選択肢は誤り:相手の提示にすぐ応じる、根拠なく値切る、などは準備(目的・BATNA・限界)を欠いています。
- 一方的な勝ち負けは誤りになりやすい:相手に過大な負担を押しつけると、品質の低下や関係の悪化を招きます。
- 利害を探る選択肢が正解になりやすい:相手がなぜその条件にこだわるのかを確かめ、別の条件で解決を探る選択肢です。
- 権限を超えない:PM が権限を超えて契約条件を決める選択肢は誤りです。
交渉の場面は、無料模試30問にも含めています。新ECOの26タスクの全体は新ECO(2026年版)の26タスク一覧で確認できます。
確認問題1
価格だけで押し合っている
(当サイトの独自問題)保守契約の交渉で、自社は年間費用の2割引きを求めています。ベンダーは1割引きが限界だと主張し、話が進みません。ベンダーの担当者は、雑談の中で「年度末までに受注を確定させたい」と話していました。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:1。立場(割引率)の押し合いから、利害(受注の時期)に目を向けます。早期の契約確定と引き換えに条件を改善するなど、双方が得をする合意を探れます。
2:利害を探る前に、立場の押し合いを強めています。関係が悪化するおそれもあります。3:準備した目的や限界を確かめずに譲っています。4:交渉で解決する努力をせずに、判断を上に預けています。
確認問題2
交渉の準備
(当サイトの独自問題)来週、主要部品の供給について、新しいベンダーと条件の交渉をします。プロジェクト・マネジャーは、調達部門の担当者と一緒に交渉に参加する予定です。現在、比べられる他社の見積もりはありません。プロジェクト・マネジャーが交渉の前に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:4。交渉の前に、目的・優先順位・限界を整理し、BATNA を強くしておきます。他社の見積もりがあれば、条件の妥当さを判断する根拠にもなります。
1:準備なしでは、不利な条件をのむおそれがあります。2:最初から対立を前提にした進め方は、Win-Win の合意を遠ざけます。3:技術や範囲を知る PM が加わる意味を失います。
確認問題3
交渉の場での口頭の合意
(当サイトの独自問題)ベンダーとの交渉の場で、口頭の合意ができました。納期を2週間早める代わりに、試験の一部をベンダーではなく自社で行う、という内容です。会議はまもなく終わります。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:3。合意した内容は、その場で要点を確かめて書面にします。権限者の承認を経てから、契約(SOW)と計画(スケジュール・資源・リスク)に反映します。
1:承認の前に作業を変えると、後で解釈が分かれたときに戻せません。2:自社の視点で内容を確かめ、承認を得る機会を失います。4:合意を一方的に覆すのは誠実さに欠けます。負担の影響は、合意の前に検討すべきでした。