期待が食い違ったら、どう調整する?5つの手順
営業部は「早く出したい」、品質保証部は「十分に検査したい」、経理部は「費用を抑えたい」。こうした期待の食い違いは、どのプロジェクトでも起きます。
プロジェクト・マネジャー(PM)が一方の期待を選んで決めると、もう一方の協力を失います。次の5つの手順で、話し合いによる合意を目指します。
- 1
個別に聞く
それぞれの期待と、その背景にある理由を聞く
- 2
共通の目標を確かめる
憲章やビジョンに立ち返り、全員が目指すものを確かめる
- 3
判断の基準を決める
価値・リスク・費用など、何で比べるかを先に合意する
- 4
案を出して比べる
段階的なリリースなど、両方の期待に近づく案を探す
- 5
合意して記録する
決めた内容と理由を残し、関係者に共有する
立場(何を求めるか)ではなく、理由(なぜ求めるか)に目を向けると合意点が見つかりやすい。
それでも合意できないことや、プロジェクトの目標・予算の変更が要ることもあります。そのときは、スポンサーなど判断の権限を持つ人に、案と影響を示して判断を求めます。合意が計画の変更につながるなら、変更管理の手続きに乗せます。
People タスク5「期待をそろえる」で何が問われる?
試験内容の概要(ECO 2026)の People タスク5は「ステークホルダーの期待をそろえる(Align stakeholder expectations)」です。イネーブラー(仕事の例)は次の4つです(当サイトによる要約)。
- ステークホルダーを分類する。
- ステークホルダーの期待を特定する。
- 話し合いを促して、期待をそろえる。
- メンタリングの機会を整え、行動に移す。
| タスク | 中心になること | 試験の場面の例 |
|---|---|---|
| タスク4 ステークホルダーを巻き込む | 関係者を特定・分析し、関わり方を計画して実行する | 影響の大きい部門が抜けていた。支援者が反対に回った |
| タスク5 期待をそろえる | 期待を引き出し、食い違いを話し合いでそろえる | 2つの部門の要望が対立している |
| タスク6 期待をマネジメントする | 社内外の顧客の期待に成果を合わせ、満足を見続ける | 顧客の満足度が下がってきた |
似た名前のタスクが3つ並ぶので、上の表で違いをつかんでおきましょう。関わり方の計画はステークホルダーエンゲージメントの記事、顧客の満足は顧客満足を管理する方法で扱います。
分類の手法はステークホルダー分析の記事、メンタリングはプロジェクトでのメンタリングの記事で解説しています。
期待はどうやって引き出す?使える質問
関係者の期待は、最初から言葉になっているとは限りません。たとえば「使いやすいシステムにしてほしい」という要望の裏に、「新人でも1日で操作を覚えたい」という具体的な期待が隠れていることがあります。次のような質問が役立ちます。
- 目的を聞く: 「それが実現すると、何が良くなりますか」「なぜそれが必要なのですか」
- 成功の姿を聞く: 「プロジェクトが終わったとき、どうなっていれば成功だと感じますか」
- 基準を聞く: 「『早い』とは、どれくらいの時間を想定していますか」
- 優先度を聞く: 「どれか一つしか実現できないとしたら、どれを選びますか」
- 懸念を聞く: 「このプロジェクトで、心配なことはありますか」
期待には、はっきり言葉にされる要求と、言われないが当然と思われている前提(「今の機能はすべて残る」など)があります。後者を見落とすと、完成後に「こんなはずではなかった」という不満になります。前提を確かめる質問を、意識して入れましょう。
案はどう比べる?両方の期待に近づく案の探し方
案を比べる前に、判断の基準を関係者と合意しておくのが要です。冒頭の営業部と品質保証部の例で考えます。展示会は3か月後で、品質保証部は全機能の検査に4か月かかると見ています。3つの案を比べてみます。
| 案 | 営業部の期待(展示会に間に合う) | 品質保証部の期待(重大な不具合を防ぐ) | 主な影響 |
|---|---|---|---|
| A:全機能を3か月で出す | 満たす | 満たさない(検査を削る) | 不具合が出れば、展示会で信用を失う |
| B:全機能を4か月で出す | 満たさない | 満たす | 展示会の機会を逃す |
| C:展示会で見せる機能に絞って3か月で検査を終えて出し、残りは後で出す | 満たす(見せる機能に絞る) | 満たす(出す範囲は検査済み) | 範囲の分け方に合意が要る。計画の変更手続きも要る |
案Cは、営業部が早く出したい理由(展示会で見せたい)と、品質保証部の懸念(重大な不具合)を分けて考えたことで見つかりました。理由に目を向けると、両方を満たす案が見つかることがあります。
反対に、理由を確かめずに「間をとって3か月半」とすると、展示会にも間に合わず、検査も足りない、という結果になりかねません。
話し合いを進めるファシリテーションの技法は?
ECO は「話し合いを促して期待をそろえる」ことを挙げています。関係者を集めた場をうまく進める技法には、次のようなものがあります。
- ワークショップ: 関係者が一堂に会し、決められた時間で目的に沿って話し合う。進行役が論点を整理する。
- ブレインストーミング: まず批判せずに案をたくさん出し、後で絞り込む。
- 投票やランクづけ: 全員が優先順位をつけ、結果を見ながら話し合う。声の大きい人に引っぱられにくい。
- 全員の合意の確認: 決めた内容について、一人ずつ同意できるかを確かめる。
- 論点の見える化: 期待を付せんやボードに書き出し、共通点と違いを並べて見る。
進行役の PM は、どちらかの肩を持たず、中立に進めることが大切です。発言の少ない関係者にも意見を求め、全員が参加していると感じられるようにします。
合意した内容はどう記録して共有する?
話し合いで合意しても、記録がなければ、後で解釈が分かれます。合意の内容は次の点を押さえて残します。
- 何を決めたか: 具体的に。数値の基準があれば書く。
- なぜそう決めたか: 判断の基準と理由。後から加わった人も納得できるように。
- 誰が合意したか: 出席者と、承認した人。
- 次に何をするか: 担当者と期限。
記録は、議事録、要求事項の文書、プロダクトバックログなど、プロジェクトで使っている場所に残し、関係者が見られるようにします。合意によって計画やスコープが変わる場合は、関連する文書も更新します。
試験ではどう問われる?よくある誤答
期待の食い違いの問題では、次の選択肢が誤りになりやすいです(当サイトの整理)。
- PM が一方を選ぶ: 理由を確かめずに、片方の期待を優先する。
- 理由を聞かずに間をとる: 妥協は、どちらの目的も満たせないことがある。
- 最初からスポンサーに上げる: 話し合いで解けるなら、まず関係者を集める。目標や予算の変更が要るときに判断を仰ぐ。
- 口頭の合意で終える: 記録と共有がないと、後で覆る。
期待の食い違いは People 領域の状況問題でよく出ます。タスク別ドリルの People タスク5で練習しておくと、判断が速くなります。
確認問題1
2つの部門の要望が真っ向から対立している
(当サイトの独自問題)受注システムの改修で、営業部は「入力項目を増やして顧客情報を細かく残したい」と求めています。受注センターは「入力の手間が増えると処理が遅れる」と反対しています。両部門とも PM に、自分たちの要望を優先するよう求めています。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:2。PM がどちらかを選ぶ前に、両部門を集めて要望の理由(営業部が残したい情報、受注センターが守りたい処理の速さ)を確かめます。そのうえで、両方の目的に近づく案を話し合います。
1:PM が一方的に決めると、もう一方の協力を失います。3:意見を聞いても、理由を確かめずに間をとると、どちらの目的も満たせないおそれがあります。PM が一人で決める点も問題です。4:話し合いで解ける可能性があるのに、最初からスポンサーに判断を任せています。
確認問題2
言われていなかった期待が後から出てきた
(当サイトの独自問題)業務システムの更新で、利用部門との要求の確認を終え、開発を進めていました。中間のデモで、利用部門の課長が「今のシステムにある帳票の出力機能がない」と指摘しました。要求の確認の場では、この機能は話題になっていませんでした。この件の対応とは別に、今後同じことを防ぐために、プロジェクト・マネジャーが見直すべきことはどれか。
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正解:4。今ある機能が残るのは当然だと思われていたため、言葉にされませんでした。こうした暗黙の期待は、PM の側から質問して引き出す必要があります。
1:今回の機能の扱いには必要な手続きですが、再発の防止にはなりません。2:責任の押しつけで、再発の防止になりません。3:書面に限ると、暗黙の期待がさらに抜けやすくなります。
確認問題3
会議で合意したはずの内容が覆された
(当サイトの独自問題)前回の関係者会議で、リリースの範囲について全員が合意しました。しかし今週になって、出席していた部長の一人が「あの範囲に同意した覚えはない」と言い出しました。会議の合意内容は、どこにも記録されていませんでした。プロジェクト・マネジャーが今後のために行うべきことはどれか。
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正解:1。口頭の合意は、後で解釈が分かれる原因になります。決めた内容と理由と出席者を記録し、関係者に共有して確認を得れば、同じ問題を防げます。今回の範囲についても、改めて関係者で確認します。
2:記録がないまま一人の発言で範囲を変えると、ほかの関係者との合意を崩します。3:証言を集めて相手を追い込むと、関係を損ねます。4:今回の争いを上に預けるだけで、今後の防止になりません。