コスト見積もりの手法は?3つの違い
コストの見積りでよく使う手法は、類推・パラメトリック・ボトムアップの3つです。見積りのぶれが大きい作業には、三点見積もりを組み合わせます。違いを表にまとめます。
| 手法 | 出し方 | 速さ・手間 | 精度 | 向く段階 |
|---|---|---|---|---|
| 類推見積もり | 似た過去のプロジェクト全体の実績をもとに、規模などの違いを補正する | 速い・安い | 低い | 構想・立ち上げ(詳細が決まる前) |
| パラメトリック見積もり | 単価 × 数量(1画面あたりの費用 × 画面数など) | 中くらい | 単価の根拠が確かなら高い | 作業の量が数えられるようになったとき |
| ボトムアップ見積もり | WBS の作業ごとに見積もり、積み上げる | 遅い・手間がかかる | 最も高い | WBS ができた計画の段階 |
| 三点見積もり | 楽観値・最可能値・悲観値から期待値を出す | 中くらい | 見積りの幅も示せる | ぶれが大きい作業 |
どれか1つに決めるより、段階に応じて切り替えるのが基本です。構想の段階では類推で概算を出し、計画が進んだらボトムアップで積み上げ直します。
初期の見積りほど、外れる幅は大きくなります。概算は「3,000万〜4,000万円」のように幅を付けて伝え、情報が増えるたびに幅を狭めていきます。
類推見積もりとパラメトリック見積もりはどう違う?
どちらも過去のデータを使う方法ですが、使い方が違います。
類推見積もり
トップダウン
- 使うデータ似た過去のプロジェクト全体の実績
- 例前回の類似案件が3,000万円、今回は規模が約1.2倍 → 約3,600万円
- 長所速く安く出せる
- 注意点精度は低い。過去と今回の違いが大きいと外れる
パラメトリック見積もり
単価 × 数量
- 使うデータ作業量の単位あたりの単価(過去の統計)
- 例1画面あたり25万円 × 40画面 = 1,000万円
- 長所単価のデータが信頼できれば精度が高い
- 注意点単価の根拠が弱いと、全体がずれる
情報が少ない初期は類推、単価の統計があればパラメトリックが向きます。
当サイトの架空の例と整理
類推見積もりでは、過去と今回の違い(規模・技術・チームの経験)を補正します。補正の根拠を書き残すと、後で見積りの妥当性を説明できます。
パラメトリック見積もりは、単価のもとになった過去の作業が、今回の作業と似ているかが要です。似ていなければ、単価そのものを見直します。
ボトムアップ見積もりとは?
ボトムアップ見積もりは、WBS の最下位にある作業のまとまり(ワーク・パッケージ)ごとにコストを見積もり、積み上げて全体を出す方法です。
作業の中身を知る担当者が見積もるので、最も精度が高くなります。その代わり、WBS ができていないと使えず、手間もかかります。
| ワーク・パッケージ | 見積り |
|---|---|
| 設計 | 800万円 |
| 開発 | 2,400万円 |
| テスト | 1,000万円 |
| 移行 | 300万円 |
| 合計 | 4,500万円 |
見積りのぶれが大きい作業には、三点見積もり(楽観値・最可能値・悲観値)を組み合わせます。期待値だけでなく、見積りの幅も示せます。
見積もりはどんな手順で進める?
見積りの精度は、手法を選ぶ前の準備と、出した後の扱いで決まります。流れは次のとおりです。
- 1
範囲を確かめる
スコープ・ベースライン(WBS)で、何を見積もるかを決める
- 2
費用の項目を洗い出す
人件費・外注・設備・ライセンス・研修・移行など
- 3
手法を選んで見積もる
段階と手元のデータに合わせて、類推・パラメトリック・ボトムアップ
- 4
リスクの備えを足す
特定済みのリスクには、コンティンジェンシー予備
- 5
根拠を残し、承認を得る
前提・制約・使ったデータを書き、コスト・ベースラインとして承認
- 6
実績と比べて見直す
差異が大きければ原因を分析し、必要なら変更管理へ
当サイトの整理
見積りの根拠を残しておくと、後で差異が出たときに、どの前提が崩れたかを追えます。根拠のない数字は、見直しもできません。
コスト・ベースラインと予算はどう積み上げる?
見積りを足しただけでは、まだ予算ではありません。リスクに備えるお金を2段階で足します。
予算 = 作業の見積り合計 + コンティンジェンシー予備 + マネジメント予備
- 1ワーク・パッケージの見積り合計 = 4,500万円
- 2+ コンティンジェンシー予備(特定済みのリスクへの備え)500万円
- 3= コスト・ベースライン 5,000万円(= BAC)
- 4+ マネジメント予備(特定できていないリスクへの備え)300万円
- 5= プロジェクト予算 5,300万円
コスト・ベースライン 5,000万円、予算 5,300万円
当サイトの架空の例
コスト・ベースラインは、EVM で使う BAC(完成時総予算)になります。プロジェクト・マネジャー(PM)が実績と比べる基準です。
マネジメント予備は、ベースラインの外にあります。使うには、スポンサーや運営委員会(ステアリング・コミッティ)など、ガバナンスで決めた承認者の許可が必要です。2つの予備の違いと使う手続きは コンティンジェンシー予備とマネジメント予備の違い で解説しています。
コンティンジェンシー予備の金額は、特定済みのリスクの期待金額価値(EMV)の合計などを根拠に決めます。
よくある誤りは?
見積りが外れる原因は、手法の選び方より、扱い方にあることが多いです。次の5つは避けてください。
- 見積りに余裕を隠して上乗せする:担当者ごとに上乗せすると合計が膨らみ、余裕は使い切られがちです。不確かさはリスクとして洗い出し、予備として見える形で持ちます。
- 費用の項目が抜ける:ライセンス、研修、データ移行、運用への引き継ぎなど、作業以外の費用は漏れやすい項目です。
- 受注したい金額から逆算する:値引き後の数字を見積りにすると根拠が失われ、後で大きな差異が出やすくなります。
- 見積りの合計をそのまま予算にする:予備がないので、リスクが起きるたびに予算が足りなくなります。
- 前提を書かない:前提が変わっても気づけず、見積りを見直すきっかけを失います。
支出の追跡と財務報告はどうする?
予算ができたら、いつ、いくら使うかの計画を作ります。時間に沿って累計すると、S字カーブの形になります。
財務部門が四半期ごとなどに資金を出す場合は、その上限と支出の計画を合わせます。ある時期の支出が上限を超えるなら、作業の時期をずらすなどして調整します。
実行中は、次の流れで支出を追跡し、報告します。
- 実績を集める:作業ごとの実コスト(AC)と出来高(EV)を、決めた周期で集める。
- 計画と比べる:コストの差異(CV)や効率(CPI)を出し、完成時の見込み(EAC)を更新する。予算内に収めるのに必要な効率は TCPI で確かめる。
- 原因を分析する:差異が許容範囲(しきい値)を超えたら、原因と今後の影響を分析する。
- 報告し、手続きに乗せる:スポンサーや運営委員会に報告する。予算の変更や予備の使用が必要なら、ガバナンスの手続きで承認を得る。
EVM の計算と完成時の見込みの式は、PMPの計算問題の公式一覧 にまとめています。予算は全体の計画の一部なので、スコープやスケジュールの計画との整合も確かめます。
アジャイルのプロジェクトでは予算をどう扱う?
アジャイルでは、チームの人数と期間がほぼ決まっていることが多いです。コストはおおむね「チームの1イテレーションあたりの費用 × イテレーション数」で決まります。
予算を固定し、その範囲で価値の高い機能から作るのが基本です。たとえば1イテレーション(2週間)のチーム費用が200万円で、予算が2,400万円なら、使えるのは12イテレーションです。
予測型はスコープを固めてから費用を見積もり、アジャイルは費用と期間を固めてスコープを調整します。試験では、どちらの前提の問題かを問題文から読み取ります。
PMPのProcessタスク6では何が問われる?
ECO 2026年版の Process タスク6は「財務の計画と管理(Plan and manage finance)」です。イネーブラー(タスクに含まれる仕事の例)として、次の7つが挙がっています(当サイトによる要約)。
- プロジェクトに必要な資金を分析する
- リスクとコンティンジェンシーのための資金を定量化する
- ライフサイクルを通じた支出の追跡を計画する
- 財務の報告を計画する
- 将来の財務上の課題を予測する
- 財務上の差異を監視し、ガバナンスのプロセスと連携する
- 財務上の予備を管理する
旧版(2021年版)の ECO では「予算と資源の計画と管理」というタスクでした。2026年版では財務が独立したタスクになり、予備の管理やガバナンスとの連携がはっきり書かれました。見積りの手法そのものより、「予算をどう守り、差異をどう扱うか」の判断が問われると考えてください。
確認問題1
初期の段階で使う見積り手法
(当サイトの独自問題)経営会議で、新しい物流システムの構想が承認されました。まだ要件は固まっておらず、WBS もありません。スポンサーからは、来週までに概算の費用を示すよう求められています。社内には、2年前に行った似た規模の物流システム導入の実績データがあります。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:3。要件も WBS もない初期の段階で、似た過去のプロジェクトの実績があります。速く出せる類推見積もりが適しています。概算なので、幅を付けて伝えます。
1:要件が固まらないうちは WBS を作れず、来週までに間に合いません。2:作業の詳細がないので、作業ごとに積み上げられません。4:要件がないまま正式な見積りは取れず、時間もかかります。
確認問題2
コスト・ベースラインの金額
(当サイトの独自問題)ワーク・パッケージの見積りの合計は2,000万円です。リスク分析にもとづくコンティンジェンシー予備は200万円、組織の方針によるマネジメント予備は150万円です。EVM で使う BAC として、コスト・ベースラインを確定します。正しい金額はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:2。コスト・ベースライン = 作業の見積り合計 + コンティンジェンシー予備です。2,000 + 200 = 2,200万円になります。
1:コンティンジェンシー予備を入れていません。3:マネジメント予備まで足したプロジェクト予算です。4:コンティンジェンシー予備の代わりに、マネジメント予備を足しています。
確認問題3
支出の計画が資金の上限を超える
(当サイトの独自問題)財務部門は、四半期ごとに上限を決めて資金を出しています。この上限は変えられないと説明を受けています。支出の計画を確認すると、第2四半期の支出が上限を15%上回っていました。プロジェクト全体の予算は承認済みで、総額は変わりません。一部の作業には、時期をずらせる余裕(フロート)があります。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。総額ではなく、支出の時期の問題です。フロートのある作業を後ろにずらせば、四半期ごとの支出を上限に収められます。財務部門と計画を合わせ、必要ならスケジュールを更新します。
2:マネジメント予備は想定外のリスクへの備えで、資金の時期の調整には使いません。3:時期をずらせば解決します。スコープを減らすのは行き過ぎです。4:上限は変えられないと説明を受けており、了承は得られません。
次に何をすればいい?
見積りの3つの手法の違いと、予算の積み上げの順番を、白紙に書けるようにしてください。この2つが分かれば、予備費や EVM の問題がずっと解きやすくなります。
Process のタスクごとに問題を解いて確かめたい人は、タスク別ドリルでタスク6を集中的に練習できます。