定性的リスク分析とは?
定性的リスク分析は、特定したリスクの発生確率と影響を、段階(高・中・低など)で評価し、優先順位を付ける分析です。数字を細かく出さないので、短い時間で多くのリスクを並べられます。
ポイントは、「高」「中」「低」の意味を前もって決めておくことです。たとえば影響の「高」を「費用が10%以上増える、または最終期限が1か月以上遅れる」のように決めます。決めておかないと、人によって評価がばらつきます。この尺度はリスクマネジメント計画で決めます。
あわせて、ほかの観点も見ることがあります。情報の質(データの確かさ)、緊急さ(いつまでに手を打つか)、近さ(いつ起きそうか)などです。
発生確率・影響度マトリクスの使い方は?
発生確率・影響度マトリクスは、確率と影響を縦横に取った表です。それぞれのリスクを当てはめると、どのリスクを優先すべきかが一目で分かります。
| 発生確率\影響 | 影響:低 | 影響:中 | 影響:高 |
|---|---|---|---|
| 確率:高 | 中(見守る) | 高(対応する) | 最優先(すぐ対応する) |
| 確率:中 | 低(受容を検討) | 中(見守る) | 高(対応する) |
| 確率:低 | 低(受容を検討) | 低(受容を検討) | 中(見守る) |
数字で点数化する方法もあります。たとえば確率と影響をそれぞれ 1〜5 で評価し、掛け算した値を「リスクスコア」として並べます。確率4 × 影響5 = 20 のリスクは、確率5 × 影響1 = 5 のリスクより優先度が高くなります。
好機(よい影響)も、同じ考え方で評価します。脅威用と好機用のマトリクスを並べて使うこともあります。
注意したいのは、確率が低くても影響が非常に大きいリスクです。スコアだけで並べると下位に来ます。しかし、起きたらプロジェクトが続けられないようなものは、別に注意して扱います。
定量的リスク分析とは?
定量的リスク分析は、リスクがプロジェクト全体の目標(期間・費用など)に与える影響を数字で見積もる分析です。「この計画どおりに終わる確率は何%か」「予備はいくら必要か」といった問いに答えます。
代表的な方法は次のとおりです。
- 期待金額価値(EMV):確率 × 影響額で、リスクの金額の期待値を出す。
- デシジョンツリー分析:選択肢ごとに、起こりうる結果の EMV を比べて選ぶ。
- モンテカルロ・シミュレーション:作業の期間や費用に幅(最小〜最大)を与え、コンピュータで何千回も計算して、全体の結果の分布を出す。「80%の確率で○月○日までに終わる」のように言える。
- 感度分析(トルネード図):どのリスクや不確かさが、全体の結果に一番大きく影響するかを、棒の長さで並べて示す。上の棒ほど影響が大きい。
期待金額価値(EMV)はどう計算する?
EMV は、リスクごとに「確率 × 影響額」を出し、合計します。脅威はマイナス、好機はプラスで計算するのがポイントです。
EMV = 発生確率 × 影響額(脅威はマイナス、好機はプラス)
- 1脅威A:確率30%、影響 −200万円 → 0.3 × (−200万) = −60万円
- 2脅威B:確率10%、影響 −500万円 → 0.1 × (−500万) = −50万円
- 3好機C:確率20%、影響 +100万円 → 0.2 × (+100万) = +20万円
- 4合計:(−60万) + (−50万) + (+20万) = −90万円
- 5→ これらのリスクに備えるコンティンジェンシー予備の目安は、約90万円
EMV の合計がマイナスなら、その分をコンティンジェンシー予備として備える目安になる
数値は説明のための架空の例
検算:60 + 50 = 110、110 − 20 = 90 なので、合計は −90万円です。デシジョンツリーを含む計算の例題は期待金額価値(EMV)とデシジョンツリーの計算で扱います。
EMV は「平均すればこのくらい」という期待値です。実際には、脅威Aが起きれば200万円の損失が出ます。EMV だけで判断せず、一番悪い場合に耐えられるかも見ます。予備の考え方はコンティンジェンシー予備とマネジメント予備の違いで詳しく扱います。
定性的と定量的はどちらをいつ使う?
基本は、定性的分析をすべてのリスクに行い、定量的分析は必要なときだけ行うです。
定性的リスク分析
- 目的個々のリスクの優先順位を付ける
- 評価の形高・中・低などの段階
- 対象特定したすべてのリスク
- 手間と頻度速く安い。毎回の見直しで行う
- 主な道具確率・影響度マトリクス、リスクスコア
定量的リスク分析
- 目的全体の目標への影響を数字で示す
- 評価の形金額・日数・確率
- 対象重要なリスク、プロジェクト全体
- 手間と頻度時間とデータが要る。大規模・高リスクの案件で行う
- 主な道具EMV、デシジョンツリー、モンテカルロ、トルネード図
当サイトの整理
小さなプロジェクトでは、定量的分析を省くこともよくあります。逆に、大規模で予算や期限が厳しいプロジェクトでは、予備の根拠を示すために定量的分析が役立ちます。
分析の結果(確率・影響・優先度・緊急さなど)は、リスク登録簿に書き足して対応策の検討に使います(リスク登録簿の書き方)。優先度の低いリスクも消さずに、見守る一覧(ウォッチリスト)として残します。
アジャイルではリスク分析をどう行う?
アジャイルでも、確率と影響で優先順位を付ける考え方は同じです。違うのは、分析のタイミングと置き場所です。
- 頻度:計画の初めにまとめて行うのではなく、スプリント計画やバックログの手入れのたびに、短く見直します。
- 置き場所:重要なリスクへの対応を、バックログの項目(例:スパイク、試作)として入れ、価値と並べて優先順位を付けます。
- 数字の使い方:モンテカルロ・シミュレーションは、アジャイルでも使えます。過去のスループット(期間あたりに終えた項目数)から、「何スプリントで終わりそうか」を予測します。
- 見える化:リスクをボードに貼り出し、確率と影響の段階をチームで付け直します。
アジャイルの状況では、「分厚い定量分析を先にやる」より「短い反復で不確かさを早く確かめる」選択肢が合うことが多いです。ただし、予算や規制に関わる大きなリスクは、アジャイルでも数字で示してガバナンスに伝えます。
よくある誤答パターンは?
リスク分析の問題で選びがちな誤りを、理由とあわせて整理します。
| 選びがちな選択肢 | なぜ誤りになりやすいか |
|---|---|
| すべてのリスクに定量的分析を行う | 手間とデータが足りない。まず定性的分析で絞り込む |
| 評価が割れたら多数決や最悪の値で決める | 尺度(高・中・低の意味)がそろっていないのが原因。計画の尺度を確かめる |
| スコアの低いリスクは登録簿から消す | 受容や見守りの対象として残し、定期的に見直す。確率が低く影響が極端なものは別に注意する |
| EMV の計算で好機も引き算する | 好機はプラス、脅威はマイナス。符号を取り違えると予備の目安がずれる |
| マトリクスで全体の完了確率を答える | マトリクスは個々のリスクの順位付け。全体の確率はモンテカルロなど定量的手法で出す |
| 作業ごとの見積もりに余裕を上乗せして備える | 隠れた余裕は使い切られやすい(パーキンソンの法則)。分析にもとづく予備として分けて持ち、使い方を管理する |
迷ったら、問いが「個々のリスクの順位」を聞いているのか、「プロジェクト全体の数字」を聞いているのかを先に確かめます。そうすると、定性的か定量的かを選び分けやすくなります。
図表問題ではどう出る?
2026年版のECOは、新しい問題形式として2つを挙げています。グラフや図を読み取って答えるグラフィック問題と、図表を含むことがあるケース(シナリオ)問題です。リスクの分析は図との相性がよく、次のような出方が考えられます。
- 確率・影響度マトリクスを見て、最優先で対応すべきリスクを選ぶ
- トルネード図を見て、最も影響の大きい不確かさを選ぶ
- デシジョンツリーの数値から、EMV が最もよい選択肢を選ぶ
- モンテカルロの累積確率のグラフから、ある日付までに終わる確率を読む
計算が速くても、図の読み方に慣れていないと時間がかかります。分析の結果を対応策にどうつなげるかはリスク対応策の種類を参照してください。表を読み取るケーススタディは、無料模試30問でも体験できます。
確認問題1
評価が人によってばらつく
(当サイトの独自問題)定性的リスク分析のワークショップで、同じリスクについて、ある人は影響を「高」、別の人は「低」と評価しました。議論はまとまりません。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:2。評価がばらつくのは、「高」「低」の意味がそろっていないからです。計画で決めた尺度を確かめて共有し、同じ基準で評価します。尺度が無ければ決めます。
1:基準があいまいなまま平均しても、結果に意味がありません。3:何でも「高」にすると、優先順位が付かなくなります。4:すべてを定量的に分析するのは手間がかかりすぎ、尺度の問題も解決しません。
確認問題2
EMVで選択肢を比べる
(当サイトの独自問題)部品の調達先を2社から選びます。A社は費用100万円で、20%の確率で納期遅れによる追加費用50万円が発生します。B社は費用110万円で、遅れの確率は5%、追加費用は40万円です。期待値で比べたとき、適切な判断はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:1。A社:100 + 0.2 × 50 = 110万円。B社:110 + 0.05 × 40 = 112万円。期待値ではA社のほうが2万円安くなります。
2:遅れのリスクの期待値を入れていません。3:確率だけで判断し、費用を見ていません。4:確率を掛けずに影響額をそのまま足しています。実際の判断では、期待値に加えて、遅れたときに耐えられるかも確かめます。
確認問題3
完了の確率を知りたい
(当サイトの独自問題)大規模な建設プロジェクトで、スポンサーから「今のスケジュールのまま、年度末までに完了できる確率はどのくらいか」と聞かれました。各作業の期間には不確かさがあり、最小・最も可能性の高い・最大の見積もりがそろっています。プロジェクト・マネジャーが使う手法として最も適切なものはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:4。各作業の期間の幅をもとに何千回も計算し、完了日の分布を出します。そうすれば「年度末までに終わる確率」を数字で示せます。
1:マトリクスは個々のリスクの優先順位を付ける道具で、全体の完了の確率は出せません。2:リスクスコアの合計は確率を表しません。3:感触では根拠のある確率になりません。