EMV(期待金額価値)とは?
EMV(Expected Monetary Value:期待金額価値)は、不確かな出来事を、「何度も繰り返したら平均していくらになるか」で表した金額です。
計算は掛け算1回です。発生確率20%で、起きれば300万円の損失になるリスクの EMV は、0.2 × (−300) = −60万円です。複数のリスクがあれば、それぞれの EMV を足します。
EMV = 発生確率 × 影響額(脅威はマイナス、好機はプラス)
- 1脅威 R1:20% × (−300万円) = −60万円
- 2脅威 R2:10% × (−500万円) = −50万円
- 3好機 O1:30% × (+100万円) = +30万円
- 4合計 = −60 − 50 + 30 = −80万円
リスク全体の期待値は −80万円
当サイトの架空の例
EMV は、リスクを金額で比べる定量的リスク分析の代表的な手法です。確率と影響度で順位をつける定性的分析との違いは、定性的リスク分析と定量的リスク分析の違い で解説しています。
ECO 2026年版では、Business Environment タスク5「リスクの計画とマネジメント(Plan and manage risk)」にリスクの分析が含まれます。Process タスク6「財務の計画と管理」には、リスクとコンティンジェンシーのための資金の定量化が含まれます。EMV は、この2つをつなぐ計算です。
脅威と好機の符号はどう付ける?
リスクには、マイナスの影響を与える脅威と、プラスの影響を与える好機があります。EMV では、この違いを符号で表します。
| 種類 | 影響額の符号 | 例 |
|---|---|---|
| 脅威(費用の増加・収入の減少) | マイナス | 部品の値上がりで 300万円の追加費用 |
| 好機(費用の削減・収入の増加) | プラス | 早期完了の報奨金 100万円 |
問題文が「費用」で書かれている場合は、注意が必要です。費用の増加を「+」で表す問題もあり、その場合は費用の EMV が小さい選択肢が有利です。どちらの書き方でも、脅威と好機を逆の符号にすることだけは守ります。
好機を脅威と同じ符号で足すと、上の例の合計は −140万円になります。必要な予備を、60万円も多く見積もってしまいます。
デシジョンツリーはどう読む?
デシジョンツリーは、選択肢(決定)と、その後に起こりうる結果(確率)を、枝分かれの図で表したものです。読み方は次の手順です。
- 1
選択肢を並べる
決定の分かれ目(四角で描くことが多い)から、選べる案を書く
- 2
結果と確率を書く
各案の後の分かれ目(丸で描くことが多い)に、起こりうる結果と確率を書く
- 3
結果ごとの金額を出す
初期費用や追加費用を足して、その結果になった場合の金額を出す
- 4
案ごとの EMV を出す
確率 × 金額 を足す。確率の合計が100%か確かめる
- 5
最も有利な案を選ぶ
費用なら EMV が小さい案、利益なら大きい案
当サイトの整理
右の端(結果)から計算して、左の決定の分かれ目まで戻ってくるのがコツです。分かれ目ごとに EMV を1つにまとめていくと、枝が多くても迷いません。
例題:自社で開発するか、製品を買うか
(当サイトの架空の例)新しい管理システムを「自社で開発」するか「製品を購入」するかを決めます。起こりうる結果と確率は、次のとおりです。
| 案 | 初期費用 | 起こりうる結果 | 確率 | 結果の総費用 |
|---|---|---|---|---|
| 自社で開発 | 500万円 | 手戻りなし | 60% | 500万円 |
| 自社で開発 | 500万円 | 手戻りで +200万円 | 40% | 700万円 |
| 製品を購入 | 600万円 | そのまま使える | 90% | 600万円 |
| 製品を購入 | 600万円 | 改修で +100万円 | 10% | 700万円 |
デシジョンツリーの計算例
案の EMV = Σ(確率 × 結果の総費用)
- 1開発:0.6 × 500 + 0.4 × 700 = 300 + 280 = 580万円
- 2購入:0.9 × 600 + 0.1 × 700 = 540 + 70 = 610万円
- 3検算:開発 = 500 + 0.4 × 200 = 580、購入 = 600 + 0.1 × 100 = 610
- 4比較:580 < 610
費用の期待値が小さい「自社で開発」を選ぶ(差は30万円)
当サイトの架空の例
初期費用だけで比べると、開発が100万円安く見えます。手戻りのリスクを入れると、差は30万円に縮みます。リスクを金額に入れて比べることが、デシジョンツリーの目的です。
EMV は「平均」です。実際の結果は500万円か700万円のどちらかで、580万円ちょうどにはなりません。
予備費の算定にはどう使う?
特定済みのリスク(既知の未知)に備えるお金が、コンティンジェンシー予備です。各リスクの EMV の合計は、その金額を決める根拠の1つになります。最初の例では合計が −80万円なので、80万円のコンティンジェンシー予備を見込む、という考え方です。
コンティンジェンシー予備は、コスト・ベースラインに含めます。特定できていないリスク(未知の未知)に備えるマネジメント予備は、ベースラインの外に置きます。2つの予備の違いと使う手続きは コンティンジェンシー予備とマネジメント予備の違い、予算の積み上げ方は コスト見積もりの手法と予算の作り方 で解説しています。
EMVの限界と注意点は?
EMV は便利ですが、万能ではありません。使うときは次の4点に気をつけます。
- 確率と金額は見積りにすぎない:根拠の弱い確率で計算すると、結果も弱くなります。確率を少し変えても結論が変わらないかを確かめ(感度分析)、前提を記録しておきます。
- 平均であって、実際の結果ではない:1回きりの大きな決定では、最悪の結果に耐えられるかもあわせて考えます。
- 組織のリスクへの考え方で、選ぶ案が変わる:EMV が少し不利でも、損失の幅が小さい案を選ぶ組織もあります。
- 特定できていないリスクは計算に入らない:想定外への備えは、マネジメント予備で持ちます。
よくある誤りは?
EMV とデシジョンツリーの失点は、計算の難しさより、次の5つの取り違えから起きます。
- 好機を脅威と同じ符号で足す:好機はプラス、脅威はマイナスです。
- 確率の合計が100%にならない:1つの分かれ目から出る枝の確率は、足して100%になります。
- 初期費用を二重に足す:結果の総費用に初期費用を含めたら、最後にもう一度足しません。
- 費用と利益の向きを取り違える:費用の EMV は小さい方、利益の EMV は大きい方が有利です。
- 確率を掛け忘れる:影響額をそのまま合計すると、リスクを大きく見積もりすぎます。
確認問題1
コンティンジェンシー予備の金額
(当サイトの独自問題)リスク登録簿に3つのリスクがあります。A は発生確率25%で400万円の追加費用、B は発生確率50%で80万円の追加費用です。C は発生確率20%で150万円の費用削減になる好機です。EMV にもとづいて見込むコンティンジェンシー予備はどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:4。A:0.25 × (−400) = −100、B:0.5 × (−80) = −40、C:0.2 × (+150) = +30。合計 −110万円なので、110万円です。
1:好機 C を、脅威と同じ符号で足しています(100 + 40 + 30)。2:確率を掛けずに、影響額を合計しています(400 + 80 − 150)。3:好機 C を無視しています。
確認問題2
デシジョンツリーで案を選ぶ
(当サイトの独自問題)老朽化したサーバーへの対応を決めます。案1「クラウドへ移行」は初期費用180万円で、50%の確率で追加の設定作業80万円がかかります。案2「サーバーを更新」は初期費用200万円で、30%の確率で故障対応100万円がかかります。費用の期待値が最も小さい案と、その値の組み合わせはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。案1:180 + 0.5 × 80 = 220万円。案2:200 + 0.3 × 100 = 230万円。小さい案1を選びます。
2:案2の値は正しいですが、案1より大きい値です。3:確率を掛けずに、追加費用を全額足しています(180 + 80)。4:案2の初期費用だけで、故障対応のリスクを入れていません。
確認問題3
特定済みのリスクが発生した
(当サイトの独自問題)リスク登録簿に載っていた「主要部品の値上がり」が、実際に起きました。このリスクには、計画どおりの対応策とコンティンジェンシー予備が用意されています。追加の費用は、予備の範囲に収まる見込みです。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:2。特定済みのリスクには、計画した対応策とコンティンジェンシー予備で対処します。実行した後は、リスク登録簿と予備の残高を更新します。
1:マネジメント予備は、特定できていないリスクに備えるものです。3:すでに特定・分析済みのリスクで、新しく登録し直す必要はありません。4:予備の範囲内なので、ベースラインを増やす必要はありません。
次に何をすればいい?
EMV は「確率 × 影響額」と「符号」の2点を押さえれば解けます。デシジョンツリーは、表に書き直して案ごとに足す練習を数回すれば慣れます。ほかの計算は PMPの計算問題の公式一覧 にまとめています。
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