クラッシングとファストトラッキングはどう違う?
どちらも、スコープを減らさずに期間を縮める「スケジュール短縮」の方法です。違いは、何を使って縮めるかです。
クラッシング
資源を足す
- やること人・残業・外注・設備を足して、作業を速める
- コスト増える
- 主な副作用立ち上がりや連絡の手間が増える。残業が続くと、疲れから品質が落ちやすい
- 使える条件作業がそれ以上縮まない限界(クラッシュ期間)がある
ファストトラッキング
作業を重ねる
- やること順番に行う予定の作業の一部を、並行させる
- コスト原則として増えない(手戻りが出れば増える)
- 主な副作用前の作業が変わると、後の作業に手戻りが出る
- 使える条件任意の依存関係にだけ使える
予算に余裕がなければファストトラッキング、手戻りのリスクを増やせなければクラッシングを先に考えます。
当サイトの整理
任意の依存関係とは、チームの判断で決めた順番です(例:設計がすべて終わってから実装を始める)。物理的な制約や契約で決まる強制の依存関係(例:基礎ができる前に柱は立てられない)は、重ねられません。
どちらの方法も、スケジュールやコストのベースラインに影響します。ベースラインを変えるなら、変更管理の手続きを通します。
スケジュール短縮が必要になるのはどんなとき?
スコープを減らさずに、期間を短くしたい場面があります。たとえば、次のようなときです。
- クリティカルパス上の作業が遅れ、完了日に間に合わなくなった。
- 顧客や市場の事情で、完了日を前倒しするよう求められた。
- 計画の時点で、課された期限に対してフロートがマイナスになっている。
短縮の前に、まずクリティカルパスを確かめます。クリティカルパス以外の作業を縮めても、完了日は変わらないからです。求め方は クリティカルパスとは?求め方を例題で解説 で確認できます。
ECO 2026年版の Process タスク8「スケジュールの計画と管理」には、スケジュールの差異の分析が含まれます。差異が見つかったときの対策として、短縮の判断が問われます。
どちらを選ぶ?状況別の選び方
| 状況 | 先に検討する方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 予算が固定で、追加の資金がない | ファストトラッキング | コストを増やさずに縮められる |
| 品質や安全のリスクを増やせない | クラッシング | 作業の順序を守ったまま縮められる |
| 作業同士の依存が強制(物理的) | クラッシング | 作業を重ねられない |
| 追加の人がすぐに力を発揮できない専門作業 | ファストトラッキングや別の選択肢 | 人を足しても速くならないことがある |
どちらも使えない、または効果が足りないときは、スコープの調整や期限の再交渉も選択肢です。たとえば、優先度の低い機能を次のリリースに回します。
アジャイルでは、期限(タイムボックス)を固定し、スコープを調整するのが基本です。途中で人を足しても、チームが慣れるまではベロシティがすぐに上がるとは限りません。
短縮はどんな手順で進める?
短縮は、思いついた手をすぐに打つのではなく、次の順で進めます。プロジェクト・マネジャーが効果と副作用を比べてから決めるのが基本です。
- 1
クリティカルパスを確かめる
縮める対象を、クリティカルパス上の作業に絞る
- 2
候補を洗い出す
資源を足せる作業、重ねられる作業を挙げる
- 3
効果と副作用を比べる
1日あたりのコスト、手戻りのリスク、品質への影響
- 4
承認を得て実行する
ベースラインが変わるなら変更管理。関係者に伝える
- 5
経路を見直す
縮めた後、別の経路がクリティカルパスになっていないか確かめる
当サイトの整理
クラッシングの計算はどうする?
クラッシングでは、1日縮めるのにいくらかかるか(クラッシュ・コスト/日)を作業ごとに計算します。そして、クリティカルパス上で最も安い作業から縮めます。
短縮コスト/日 = (クラッシュ時のコスト − 通常のコスト) ÷ (通常の期間 − クラッシュ時の期間)
- 1作業 X:通常 10日・100万円、クラッシュ 8日・140万円 → (140 − 100) ÷ (10 − 8) = 20万円/日(最大2日)
- 2作業 Y:通常 6日・60万円、クラッシュ 5日・75万円 → (75 − 60) ÷ (6 − 5) = 15万円/日(最大1日)
- 3作業 W:通常 4日・40万円、クラッシュ 3日・70万円 → (70 − 40) ÷ (4 − 3) = 30万円/日(最大1日)
安い順:Y(15万円)→ X(20万円)→ W(30万円)
当サイトの架空の例
計算問題の例:2日短縮するにはいくらかかる?
(当サイトの独自例題)上の X・Y・W は、X → Y → W の順に並ぶ経路(10 + 6 + 4 = 20日)にあり、これがクリティカルパスです。もう1本の経路は Z(8日)→ V(10日)= 18日です。V は1日あたり5万円で縮められます(Z は V より高いとします)。完了日を2日早めて18日にするための、最小の追加コストを求めます。
クリティカルパス上で、1日あたり最も安い作業から1日ずつ縮める
- 11日目:Y を1日縮める(15万円)→ X → Y → W = 19日。もう1本は18日なので、クリティカルパスは変わらない
- 22日目:Y は限界。次に安い X を1日縮める(20万円)→ 18日
- 3もう1本の経路も18日 → 2本ともクリティカルパスになる
- 4合計 = 15 + 20 = 35万円
最小の追加コストは35万円
当サイトの架空の例
V は1日5万円と最も安いのですが、クリティカルパスに載っていません。ここで縮めても、完了日は早まりません。これが典型的なひっかけです。
さらに1日縮めて17日にするなら、2本の経路を両方縮める必要があります。X をもう1日(20万円)と V を1日(5万円)で追加は25万円、合計は60万円です。クリティカルパスが複数になると、短縮のコストは急に上がります。
よくある誤りは?
短縮の問題は、計算より「どこを縮めるか」で間違えやすい分野です。次の6点を確かめてください。
- クリティカルパス以外を縮める:安くても、完了日は早まりません。例題の V がこれに当たります。
- 縮めた後の入れ替わりを見落とす:別の経路が同じ長さに並んだら、両方を縮めないと期間は変わりません。
- 総額で比べる:比べるのは1日あたりのコストです。総額が小さくても、1日あたりでは高いことがあります。
- 限界を超えて縮める:クラッシュ期間より短くはできません。例題の Y は1日までです。
- 強制の依存関係を重ねる:物理的・契約上の順番は、ファストトラッキングでも変えられません。
- 人を足せばその分速くなると考える:立ち上がりや連絡の手間で、効果が小さくなることがあります。
確認問題1
1日あたりの短縮コスト
(当サイトの独自問題)クリティカルパス上のデータ移行作業は、通常12日・240万円です。外部の専門家を追加すると、9日・330万円で終えられます。短縮の候補を比べるため、この作業の1日あたりの短縮コストを求めます。正しいものはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:1。(330 − 240) ÷ (12 − 9) = 90 ÷ 3 = 30万円/日です。
2:クラッシュ時のコストを通常の期間で割った値(330 ÷ 12)です。3:増えるコストの総額で、1日あたりではありません。4:クラッシュ時のコストをクラッシュ時の期間で割った値(330 ÷ 9)です。
確認問題2
予算が増やせないときの短縮
(当サイトの独自問題)完了日を1週間前倒しするよう、顧客から求められました。スポンサーは予算の追加を認めていません。チームによると、設計と実装は一部を重ねて進めることが技術的に可能で、手戻りのリスクは管理できる範囲です。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:3。予算を増やせないので、コストを増やさずに縮められるファストトラッキングが適しています。手戻りのリスクへの対応もあわせて計画します。
1:要員の追加はクラッシングで、スポンサーはすでに予算の追加を認めていません。2:クリティカルパス以外を縮めても、完了日は早まりません。4:実行できる選択肢を検討せずに、前倒しを断っています。
確認問題3
どの作業を縮めるか
(当サイトの独自問題)完了日を1日早める必要があります。各作業の1日あたりの短縮コストと、クリティカルパス上にあるかどうかは次のとおりです。どの作業も1日以上縮められ、1日縮めてもクリティカルパスは変わりません。最も少ない追加コストで目的を達成するには、どの作業を縮めるべきか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:4。完了日を早めるには、クリティカルパス上の作業を縮める必要があります。クリティカルパス上で最も安いのは、N の9万円です。
1・3:安くてもクリティカルパス外なので、完了日は早まりません。2:クリティカルパス上ですが、N より高い作業です。
次に何をすればいい?
短縮の判断には、クリティカルパスと見積りの理解が前提になります。期間の見積り方は 三点見積もりとPERTの計算式 で確認してください。
人の制約でスケジュールが延びる場合の調整は 資源平準化、人を増やしたときの連絡の手間は コミュニケーションチャネル数の計算 で扱っています。状況に応じた短縮の判断は、無料模試30問で練習できます。