かんばん方式の起源は?(トヨタ生産方式)
かんばんは、トヨタ生産方式で使われてきた仕組みです。トヨタ生産方式には「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の2本の柱があります。かんばんは、ジャスト・イン・タイム(必要なものを、必要なときに、必要なだけ造る)を支える道具です。
後の工程は、使った分だけ前の工程から部品を引き取ります。何がどれだけ必要かを知らせる札が「かんばん」です。引き取る量と時期を示す「引き取りかんばん」と、造る量と時期を示す「仕掛けかんばん」があります。作りすぎと在庫を減らすのが目的です。
この考え方を、ソフトウェア開発などの知識労働に当てはめたのが「かんばん方式(Kanban Method)」です。2000年代にデビッド・J・アンダーソンらが体系化し、2010年の著書『Kanban』で広まりました。部品の札の代わりに、作業のカードとボードを使います。PMI の『アジャイル実務ガイド』の日本語版では「カンバン方式」と書かれています。
| 観点 | トヨタ生産方式のかんばん | ソフトウェア開発のかんばん方式 |
|---|---|---|
| 流れるもの | 部品・製品 | 作業(機能の開発、問い合わせ対応など) |
| 札・カード | 部品箱に付けたかんばん | ボードの上の作業カード |
| 目的 | 作りすぎと在庫をなくす | 作業の滞留をなくし、早く届ける |
| 量の制限 | かんばんの枚数で在庫を制限する | 列ごとのWIP制限で、進行中の作業を制限する |
| 共通の考え方 | 後工程が必要な分だけ引き取る(プル) | 空きができたら次の作業を引く(プル) |
ソフトウェアのかんばん方式の原則は?
かんばん方式には、今のやり方を大きく壊さないという特徴があります。『アジャイル実務ガイド』は、4つの原則と6つの特性(実践)を挙げています。要点は次のとおりです(当サイトの要約)。
- 今のやり方から始める: 役割や手順をいきなり変えず、まず今の流れを見える化します。
- 少しずつ進化させることに合意する: 大きな改革ではなく、小さな変更を試しては確かめます。
- 今のプロセス・役割・責任を尊重する: 肩書きや担当を壊さずに始めるので、抵抗が小さくなります。
- あらゆる立場のリーダーシップを促す: 改善の提案は誰からでも出せます。
実践は、流れの見える化、WIPの制限、流れの管理、ルールの明示、フィードバックの仕組み、協力しての改善の6つです。
かんばんボードはどう作る?
かんばんボードは、作業の状態ごとに列を分けた板(または画面)です。作業1つにつき1枚のカードを作り、進むにつれて左から右へ動かします。作り方は次のとおりです。
- 1
未着手
優先順に並べた作業の候補
- 2
分析(2)
内容と受入基準を詰める
- 3
開発(3)
作る・コードレビューを受ける
- 4
テスト(2)
受入基準を確かめる
- 5
完了
利用者に届いた状態
列の数や名前は、チームの実際の流れに合わせて決めます。
- 今の流れを書き出す: 実際に作業が通る段階を並べます(例:未着手 → 分析 → 開発 → テスト → 完了)。
- カードを置く: 今ある作業をすべてカードにして、今の状態の列に置きます。
- WIP制限を書く: 各列の上に、同時に置けるカードの上限を書きます(例:開発 3、テスト 2)。
- ルールを明示する: 「次の列に動かせる条件」をボードに書きます(例:テストに動かすのはコードレビュー後)。
- 毎日見る: ボードの前で、右側(完了に近い方)から順に、止まっている作業を確かめます。
かんばんボードは、関係者がいつでも状況を見られる情報ラジエーター(情報を発信する掲示物)でもあります。PMが一人ひとりに進捗を聞いて回る必要がなくなります。
WIP制限にはどんな効果がある?
WIP(Work In Progress)は、着手したがまだ終わっていない作業のことです。WIP制限は、その数に上限を設けるルールです。上限に達した列には、新しい作業を入れられません。
「同時にたくさん進めた方が早く終わる」と思いがちですが、実際は逆になりやすいです。WIP制限の効果は次のとおりです。
- 切り替えのむだが減る: 複数の作業を行き来すると、思い出す時間や準備の時間がかかります。
- ボトルネックが見える: テストの列が上限で詰まると、開発者は新しい作業を始められず、詰まりがはっきりします。
- 助け合いが生まれる: 新しい作業を始められない人は、詰まっている列の作業を手伝います。「始めることをやめて、終わらせることを始めよう」という考え方です。
- 1つ1つが早く終わる: 同時に進める数が減るので、各作業が完了までにかかる時間が短くなります。
リードタイムとサイクルタイムの違いは?
かんばんでは、流れの良さを時間で測ります。定義は組織や文献で少しずつ違うため、チームで定義をそろえることが大切です。PMP の参考になるのは『アジャイル実務ガイド』の定義で、要点は次の表のとおりです。
| 指標 | 測る範囲 | 主に誰の目線か |
|---|---|---|
| リードタイム | ボードに載ってから、完了して届くまで | 依頼した顧客。「頼んでから届くまで何日?」 |
| 応答時間(待ち時間) | ボードに載ってから、作業が始まるまで | 顧客やプロダクトオーナー。「いつ着手してもらえる?」 |
| サイクルタイム | 作業を始めてから、完了するまで | チーム。「始めてから終わるまで何日?」 |
| スループット | 一定期間に完了した作業の数 | チームの処理能力。「1週間に何件終わる?」 |
| 仕掛かり日数(Work Item Age) | 作業を始めてから今日まで | チーム。「止まっている作業はどれ?」 |
式にすると、リードタイム = 応答時間 + サイクルタイム です。顧客の待ち時間を縮めるには、作業そのものを速くするより、着手までの待ちを減らす方が効くこともあります。
WIPを減らすと何が変わる?(リトルの法則の計算例)
WIP・サイクルタイム・スループットの間には、リトルの法則と呼ばれる関係があります。流れが安定しているとき、平均の値について次の式が成り立ちます。
平均サイクルタイム = 平均WIP ÷ 平均スループット
- 1今:平均WIP 12件、平均スループット 週4件
- 2平均サイクルタイム = 12 ÷ 4 = 3週間
- 3WIP制限で平均WIPを6件に減らす(スループットは週4件のまま)
- 4平均サイクルタイム = 6 ÷ 4 = 1.5週間
処理能力が同じでも、抱える作業を減らすだけで、1件あたりの完了までの時間は半分になります。
当サイトの計算例。流れが安定していることが前提です。
処理能力を上げなくても、抱える作業を減らすだけで、1件あたりの完了までの時間が縮みます。「同時にたくさん進めた方が早い」という感覚と逆になる点が、WIP制限の要です。
スクラムとの違いは?
| 観点 | かんばん方式 | スクラム |
|---|---|---|
| 期間の区切り | なし。作業は流れ続ける | 1か月以内のスプリントで区切る |
| 役割 | 決まった役割はない(今の役割から始める) | プロダクトオーナー・スクラムマスター・開発者 |
| 作業量の制御 | 列ごとのWIP制限 | スプリントで選ぶ量(スプリントゴール) |
| 変更の受け入れ | WIPに空きができれば、いつでも次の作業を引ける | 原則として次のスプリントで扱う |
| 主な指標 | リードタイム・サイクルタイム・スループット | ベロシティ・バーンダウンなど |
| 向く仕事 | 問い合わせ対応・保守・運用など、依頼が不定期に来る仕事 | 新しいプロダクトの開発など、まとまった目標がある仕事 |
スクラムの役割・イベント・作成物の全体は、スクラムとは?で図にして整理しています。
両方を組み合わせる「スクラムバン」のような使い方もあります。スクラムのチームが、かんばんボードとWIP制限を使うのは珍しくありません。スクラムの指標であるベロシティはベロシティとは?、スプリントの残り作業を示す図はバーンダウンチャートの見方で扱います。
メリット・デメリットは?
かんばん方式は導入しやすい反面、決まりが少ない分だけ運用の規律が要ります。
メリット
- 今のやり方のまま始められる
- 詰まりが見え、改善する場所が分かる
- 急ぎの依頼にもすぐ対応しやすい
- 1件あたりの完了が早くなる
デメリット・注意点
- 期限の区切りがないため、目標を別に決める必要がある
- ボードを更新しないと実態とずれる
- WIP制限を守らないと効果が出ない
- 優先順位を決める責任者を、別に決めておく必要がある
かんばんを含むアジャイル問題全体の考え方は、PMPのアジャイル対策にまとめています。
確認問題1
テストの列が詰まっている
(当サイトの独自問題)保守チームのかんばんボードで、テストの列がWIP制限の2件に達しています。開発の列の開発者2人は手が空いたため、「未着手から新しい作業を始めたい」と言っています。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
正解と解説を見る
正解:3。WIP制限で詰まりが見えたら、新しい作業を始めるより、詰まっている所を手伝って流れを回すのが基本です。どう手伝うかはチームで決めます。
1:WIPが増えて、完了までの時間がさらに延びます。2:制限を上げても詰まりの原因は変わらず、見えにくくなるだけです。4:原因の分析は必要ですが、流れが止まっている今、手を打たずに待つのは遅すぎます。
確認問題2
問い合わせ対応チームの進め方
(当サイトの独自問題)社内システムの問い合わせと小さな改修を担当するチームがあります。依頼は毎日不定期に届き、急ぎのものも多いです。経営層は「アジャイルにしたいので、2週間のスプリントを導入せよ」と言っています。プロジェクト・マネジャーが次に行うべきことはどれか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:1。依頼が不定期に来る仕事には、決まった期間で区切らず、流れを管理するかんばん方式が合います。今のやり方から始めて少しずつ改善できるので、導入の抵抗も小さくなります。
2:急ぎの依頼を次のスプリントまで待たせることになり、仕事の性質に合いません。3:WIPが増え、すべての依頼が遅れます。4:分析は進めながらでもできます。3か月待つ間、改善の機会を失います。
確認問題3
リトルの法則の計算
(当サイトの独自問題)あるチームは、平均して常に15件の作業を進行中にしています。1週間に平均5件を完了しており、流れは安定しています。チームはWIP制限を導入し、平均WIPを10件にしました。スループットは変わらないものとします。平均サイクルタイムはどう変わるか。
選択肢を押すと、正誤と解説が表示されます。
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正解:2。導入前は 15 ÷ 5 = 3週間、導入後は 10 ÷ 5 = 2週間です。
1・4:導入前の平均サイクルタイム(15 ÷ 5 = 3週間)が合っていません。3:導入後は 10 ÷ 5 = 2週間で、2.5週間ではありません。
流れや指標の読み取りは、図表を使った問題の題材にもなりえます。無料模試30問で確かめられます。